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西アジアを中心するアラブ圏ではウードという楽器が音律理論をつくりあげる役割を担った。

9世紀~13世紀に音律の理論が大きく進展。
その間に活躍した音楽家、理論家がアラブ音楽の基礎を築いた。
古代ギリシャの理論を基礎にもつ。

●アル・ファーラービー
ギリシャ哲学や数学に精通していた。→ギリシャ文化を西欧に伝える橋渡しをした。
ウードの名手でもあり、「音楽大全」を著した。
内容は音響学、楽器、作曲法など。20世紀になってフランス語に訳されヨーロッパで広く読まれた。


ファーラービーが現れる10世紀頃まではピタゴラス音律によるテトラコードでウードを調弦していた。
ウードは4本、あるいは5本の弦を持ち西欧のリュートの前進。琵琶と同じ系譜に連なる。
開放弦の調弦はすべて純正4度。
指板によって調弦が特徴付けられる。
四本の指が押さえるポイント(勘所)を調整することで調弦が行われる。
ウードの調弦では勘所の音高と開放弦の音高が一致している。

開放弦A 1/1 0セント
人差し指B 9/8 204セント
中指 C 32/27 294セント
薬指 C# 81/64 408セント
小指 D 4/3 498セント

「A-B-C-D」「A-B-C#-D」の二種類のテトラコードがつくりだされる。
これらはピタゴラス音律のトノス(9/8)とリンマ(256/243)で構成されている。
4度関係である隣の弦との組み合わせで音階がつくられる。

ウードの4度調弦は、西欧のヴィオラ・ダ・ガンバなどのヴィオール族に受け継がれている。
ギター、リュートなども同じ系列。

 

 

・ピタゴラス音律の音程にはアラブ人独特の言葉の抑揚が持つ音感覚が適合しなかった。
→あらたな勘所を設定。

最初に人差し指と薬指の間に「ペルシャのウスター」と呼ばれた中指の勘所(81/68、303セント)が設定されたが成功せず。
8世紀にウードの名手で理論家のザルザルがペルシャのウスターと薬指の間にあらたな中指の勘所(27/22、355セント)を設定した。
「ザルザルのウスター」と呼ばれ、アラブ人の感覚に受け入れられた。
この355セントは長短3度の中間に位置する。
隣の弦に適応されれば852セントとなり、長短6度の中間にあたる。
このような音程は「中立音程」と呼ばれた。

この語のアラブの音律は中立音程を中心に展開された。

 

 

十世紀になると、ウードの指板上で展開された実験がアル・ファーラービーによってアラブの音律理論として体系化された。
その体系にはさらに複雑な微分音程も含まれている。西欧では姿を消した微分音程が、中立音程を生み出す素地になっていたとも考えられる。

・十分割されたファーラービーのテトラコード
0セント1/1、90セント256/243、98セント18/17、145セント162/149、168セント54/49
204セント9/8、294セント32/27、303セント81/68、355セント27/22、408セント81/64、498セント4/3
※ピタゴラス音律による古い勘所とザルザルの中立音程などの勘所が含まれ、微分音程がひしめき合っている。


プトレマイオスの考案した様々なテトラコードが理論的な産物であったのに対し、
ファーラービーの細分化したテトラコードは演奏するための実践的なものだった。
細分化されたテトラコードは連結され、オクターブは25音によって構成された。
そこから7音がとりだされ、七音音階がつくられる。

複雑化したテトラコードは13世紀の理論家サフィー・アッ・ディーンによって合理化される。
ピタゴラス音律のリンマ(90セント)とコンマ(24セント)を単位としてテトラコードを生み出し、連結によって音階を形成した。
ただし、中立音程は385セントと882セントになってしまい、妥協したものとなっている。
オクターブは17に分割され「十七律」とよばれた。これはアラブ音楽の基盤となった。

 

19世紀の後半にはさらなる合理化がはかられる。
シリアの音楽理論家M・ムシャーカは平均律の半音を2分割した24平均律をアラブの音律として導入することを提唱した。
中立3度は350せんとになり、本来の音程に近くなっている。

 

 

※ウード
「木」の意味。
ペルシャ起源のアラブの撥弦楽器。
音律の測定にも用いられる。
西アジアの楽器の女王と考えられていた。

※アル・ファーラービー(870頃~950頃)
アラブの哲学者、音楽理論家。
アリストテレスなど数多くの著作をアラブに紹介。
著書「音楽大全」は西欧にまで絶大な影響を与えた。

※ザルザル(?~791)
アラブのウード奏者、音楽理論家。
「ザルザルのウスター」という中立音程を導入した。

※サフィー・アッ・ディーン(1230~94)
アラブの音楽理論家。
アッバース朝の宮廷で楽士、書家として活躍。
「十七律」を考案しアラブ、トルコ、イランなどの音楽に影響を与えた。

※M・ムシャーカ(1800~1888)
アラブの音楽理論家、医者。
オクターブを24分割する方法を取り入れ、アラブ音楽の近代化に貢献した。

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